第3章 捻れた現実
「……くしゅっ、」
その冷たさに、思わずくしゃみをすると。
「わわっ、主様! 大丈夫ですか?」
ラムリがみずからの魔導服のジャケットを脱ぎ、肩に着せかけてくれる。
「それ、羽織っててください」
「でも、それじゃラムリが………、」
紡ぎかけた唇に指先をあてる。
「ボクなら大丈夫ですよ! それに——」
前方に視線を投げる。
空から降り立った、ひかりを放つそのひとに、ヴァリスは眼をみはった。
『死になさい。命のために』
どこか稚い容貌に、鈍色の瞳、背に生えた純白の翼。
この世界に誘われる前、みずからの前に現れた、あの天使とまるで同じで………。
その眼が一斉に彼女をとらえ、あの時の恐怖が甦った。
「危ないですから、主様へ下がっててください!」
どこからか武器を取り出し、天使たちへと突進する。
小ぶりの鎌を手にしたラムリと、薔薇の鞭をしならせるアモン。
「遅いんだよ……!」
天使の一撃をバク転でかわし、その羽を切り裂く刃。
そのおもては先刻までの温かさは欠片もなく、
ヴァリスは祈るように両手を組み合わせた。
(お願い、ふたりとも怪我しないで……!)
祈りを込めてみつめれば、にっと笑って見せるふたり。
『死になさい。命のために』
しなる鞭が肌を舐め、薔薇が一層紅く、鮮烈な色で咲き誇った。
とん、と背を合わせて、互いを鼓舞する。
「ローズくん、まだいける?」
「勿論っすよ」
しなやかに、螺旋のように巻きついては、紅い滴りを求めている。
棘に仕込んだ毒が、ゆっくりとその肌を染め上げて。