第3章 捻れた現実
「主様……。」
すり、と唇をなぞる指先。
ふれた体温に身を固くしていると、唇に薔薇の花びらが押し当てられる。
「………!」
その花びらに愛おしそうに口付けられて、ヴァリスは眼をみはった。
「アモン……!?」
みるみる真っ赤になった彼女に、くすりと笑みを零す。
その声はヴァリスの耳に心地よく響いた。
「驚かせてしまったっすね。………あなたがあまりに可愛いから、
オレ……我慢できなくなったみたいっす」
その瞳は悪戯に煌めき、つかんだ手首はびくともしなくて。
「っ………。」
ぎゅ、と瞳を封じる。
けれどふれた温もりの先は、唇ではなく額だった。
「え……?」
ゆっくりと瞼をひらくと、微笑んだアモンの姿が。
「これ以上は、オレがベリアンさんに叱られますから」
片目をとじるその姿に、すべての意図を悟る。
………また、からかわれたのだ。
「ローズくん、また……!」
我に返ったラムリが、その手を引く。
抱き寄せたその身の温もりを感じながら、ふいに翡翠色が冷たさを宿した。
「主様も無防備すぎますからね」
抱きしめた腕から伝う、彼女の温もりと香り。
甘い匂いに魅せられていると、困ったように眉を下げる。
「ご、ごめんなさい」
さぁ……と吹き付ける風が鋭利さを増して、華奢なその身を包み込む。