第3章 捻れた現実
足音を立てぬよう、細心の注意を払いながら、彼女を導く。
重ねた手を引いて、廊下を進み階段を下りた。
そして、エントランスを抜け出そうとした時。
「あーーーっ! ローズくん、何処へいくのさ……!」
掃除をしていたラムリが、手にしたハタキを放り出して、こちらへと駆け寄ってくる。
「しぃっ……! ハウレスさんに見つかるでしょ」
慌てて彼の唇を覆うも、背後の影に気づかれてしまう。
「主様をひとり占めなんて、ずるいよ」
その瞳が彼女をとらえ、不満そうに淀む。
むっとしたように彼を見やる眼差しに、ヴァリスは唇をひらいた。
「あの……ラムリも一緒にいこう?」
微笑んで提案すると、途端に煌めく瞳。
「え……! いいんですか!?」
キラキラと嬉しそうに、笑みに染まるおもて。
そのさまにくすりと笑みを零しながら、さらに続けた。
「うん。私……一度この世界をみて回りたかったの。
だから案内してくれると嬉しい」
告げながら、その瞳が柔く和む。その温かさに惹き込まれた。
「いこう?」
微笑うおもてに笑みを返す。
「はい」
◆◇◆◇◆◇◆◇
揺れる馬車のなか、アモンは彼女を盗み見る。
「それで、その時ボスが——」
楽しそうに、ずっと話しているラムリに微笑いかけるおもては、
優しさが滲んでいるようで………。
紅く、艶めいた唇が、柔らかく綻んでいる。
その横顔は優しく、慈愛に満ちていて、ラムリの言葉を興味深そうに聴いていた。