第3章 捻れた現実
一通り屋敷内の案内を終え、ヴァリスは自室へと戻っていた。
指輪にふれながら、彼らのことについて考える。
(皆は、)
どうして、あんなにも私を支えようとしているのだろう。
あんなさまを見ておいて、気にならない筈がないのに、
それでも聴かないでいてくれた彼らの優しさに、張りつめていた心が解けた。
(さっきは、本当に嬉しかった)
胸のなかを温かさが満たす一方で、染みのように広がる感情。
(私なんかが、許されるの?)
唇をかむ。
幾年も経た今でも錆が拡がっていくように彼女の内を蝕む、父の言い放った言葉。
『おまえは人に不幸しか招かないな』
(父さん、………母さん)
心で呼びかける。
(『許して』なんて、言わないから。
だからせめて、いまこの時だけは………、)
祈るのは許されたいからじゃない。いまでもふたりを、大切に思っているからだよ。
組み合わせた指先。何度も、何度も祈りを捧げていると。
ふいに叩扉をとらえて、ヴァリスは扉をふり返った。
「主様、いまお時間いいっすか?」
声の主はアモンだった。
慌てて瞳をとじて、みずからの思考と表情を切り替える。
「えぇ。すこし待って……、」
『いま開けるねっ』。その声の直後、扉がひらく。
「アモン……どうしたの?」
穏やかに見上げる瞳に、悪戯っぽく微笑みかける。
「主様、オレとデートしましょう」
「え……!?」
みひらく瞳。まん丸に瞠目するさまに、思わず笑みが零れた。
「っふ……へへッ………なーんて、半分冗談っすよ」
「もう……!」
からかわれた彼女は軽く彼の胸を叩く。頬が紅く染まり、まるで林檎のようで……。
「そんなに怒んないでください。本当は、あなたと街へいきたかったんすよ」
ぽかぽかと叩くその手首をつかんで、微笑いかける。
どこまでも深く澄んだ深青の瞳が、そっと見返してきた。
「街に……?」
穏やかな瞳にさらに笑みが深まるのを自覚しながら、尚も続けた。
「そうっす。オレが、いろんな場所へつれていってあげますよ」
柔く、悪戯めいた笑みを携え、片手を差し出す。
「いきましょ……主様」
そのさまに心からの笑みを返しつつ、そっとみずからのそれを重ねた。
「うんっ」