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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


それでも——。


(あなたは、その身にどれ程のものを抱えているの?)

口にできない想いが、みずからの内側で反響する。



みずからが造りあげたドレスを纏い、
微笑んでくれたその姿が、心からものであるとわかったからこそ。



(あなたが心から微笑えるように、お手伝いしますよ)



「? フルーレ、なにか言った……?」
彼女の問いに、熱に染まった思考が澄みわたる。



「い……いえっ、なにも」

心まで見透かせそうに、穢れなき瞳。

否応なく、頬に朱が集うのが自分でもわかった。



くすりと彼女が笑う。その声は、フルーレの耳に心地よく響いた。



「貴方は照れ屋だね。

そんな顔をしていたら、なにを考えていたかすぐにわかるよ」

その言葉に、ますます朱が散っていく。



「……からかってごめんなさい」
それからその眼の温度を消し去る。



「さっきの私の様子を気にかけていたんだよね?」

はたと彼女を見た。見抜かれていたなんて………。



「私……美しくなんかないよ」

冷えた瞳を合わせ、きっぱりと告げる。

唇はみずからを嘲るように、苦い笑みを刻んでいた。



(どうして、そんな風には笑うの)
問いをかき消すように、再度ひらかれた唇。



「皆にも伝えて。………私を『美しい』と称したら許さないって」



「でも……あなたは、」
紡ぎかけた唇に指先をあてる。



「この話は終わりよ、フルーレ。もう何も口にしないで」

幼子を諭す如く、穏やかで説き伏せるような口調。

それでもわずかに滲む棘が、彼の言葉を奪う。



「……わかりました」
胸を手をあて一礼する。



「……………。」
口では了承したものの、胸のなかは混沌としていた。



なぜ、みずからを厭うのか。どうして、こんなに——。



(いつか……あなたが、)
御自身を好きになれるように、俺は、俺にできることを——。


心に映すは、紛うことなき想い。
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