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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


「美味しい」
心からの言葉に、その瞳が柔く解けた。



「良かった……! 本日はヌワラエリヤの茶葉を使用したのです、

お気に召していただけましたか?」



「えぇ、少しミントの香りがするんだね」
紅茶そのものの芳香のなかに、スパイスの如く潜む清涼感のある匂い。



静かに飲み干すと、ありがとう、とカップを返した。
そのまま寝台から降り立ち、ふらついた身体を支える。



「っ大丈夫ですか?」

支えた手から伝う、互いの温もりと香り。

その線の細さに、その手の力強さに、目の前の人物が異性であることに改めて知る。



(っ……私は何を意識しているのでしょうか)

縮まった距離に頬が熱を集わせる。平静を纏いながら、その瞳をみつめた。



「平気だよ」
頬に朱が散るのを感じたけれど、波うつ心は胸の奥に隠した。



(マリスと同じだよ。どうして私……こんなに動揺して、)



「お召し換えですね。フルーレくんをお呼びいたしましょう」
そっと支えていた手を解き、胸に手をあて一礼する。



「えぇ、ありがとう」
微笑んで見送ると、扉が静かに閉まった。



「っ………。」
その直後、そのおもてから笑みが消える。




夜着のリボンを解き、鏡の前へと降り立った。




「この傷痕……見られたら気味悪がられるよね、」

見返り気味に背を映し、みずからの腕に指をかける。


背の中心付近にあるその傷痕は、彼女の最大の引け目だった。
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