第2章 主人として
ピチチ……と小鳥が囀る声がする。
「ん………。」
うすく瞼をひらき、ぼんやりとしたまま視線をさ迷わせる。
「(そうだった……。昨夜……この世界に、)」
起き上がった瞬間 頭の奥が軋んで、ふたたびふかふかの枕に沈んだ。
心地良い陽だまりの匂いのするシーツに、また瞼が下がりはじめる。
けれど叩扉の音で、思考を覆っていた靄が完全に消え去った。
「主様、ベリアンでございます。お目覚めでいらっしゃいますか」
「どうぞ。入って」
傍らのショールを羽織り、応えると。
「失礼いたします」
静かな靴の音とともに、姿をみせた。
ティーセットをのせた盆を携え、微笑みかける。
「おはようございます、主様。よく眠れましたか?」
「うん、平気だよ。とてもいい天気だね」
カーテンをあけると、室内へと温かな陽光が降り注ぐ。
眩しい程のひかりに、少しだけ目元が細められた。
「紅茶をお入れいたしますので、主様はそのままでお待ちを」
「ありがとう」
コポポ……と温かな湯気とともに、立ち上る茶の香り。
「お砂糖は?」
「大丈夫だよ」
カップを受けとり、ゆっくりとした動作で口元へ運ぶ。
祖母から教わったその優雅な仕草に、
彼の瞳がすこしばかり驚いたようにゆらめいたことに気づいた。