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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第1章 はじまりの夜


導かれるままに廊下を進んで。



「ミヤジ、待って、………待ってよ!」

その声に漸く靴の音が止む。



「どうしたの? あなた……様子が、」

目を合わせようとしないその頬にふれ、強いて瞳を合わせる。

少しだけ冷えた眼を、それでも怯むことなくまっすぐに見返した。



「主様、あまりルカスに心を許さないでくれないか」




「え……?」

戸惑う瞳でみつめる。

そのおもてから指を離し、その袖口をつかむ。

その指に彼のそれがふれ、さらに言葉を重なった。



「あの男はなかなかに食えない男でね。

貴女のことも、なにか別の思い入れがあるように見えるんだ」

柔らかく諭すような口調。

それだけに彼が本気で自分を案じてくれているのだと悟った。



(それでも……私は、)

その両眼を見返して、彼女は唇をひらく。



「さっきは、助けてくれてありがとう」

でも、とつかんだ指先を解く。そして微笑んで見せた。



「信用できる人なのか、それともそうでないのかは、私自身で見極めるの。

自分自身でみて、ふれて、感じたことが、私にとっての真実だよ」

微笑って、やんわりと拒絶する。

危ういほどに透明で、それでいて針のような棘が滲むような表情だった。



「貴女は強いのだね」

心からの言葉に、一瞬にしてその瞳が混濁に呑まれる。



「いいえ、私は強くないよ。———そうあるように見せかけているだけで」

告げながら、その両眼が悲しみに染まる。

唇はみずからを嘲るように、苦い笑みを刻んでいた。




(だって、父さんと母さんは………、)



「主様……?」

戸惑う瞳に「大丈夫よ」と微笑いかける。



「何でもないの。それより……早く戻ろう」

先刻と同じ表情、同じひかりを宿す瞳。


それでもたしかに存在する突き放すような冷たさを滲ませれば、

彼は唇をひらきかけ、そして再度とじた。
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