第1章 はじまりの夜
(詮索など……主様を困らせるだけだ)
隣の少女をみつめことを止め、ただ歩みつづける。
貴女の痛みを分かつことは、私には過ぎた願いなのだろうか。
胸のなかを染め上げたのは寂しさに似た感情で、そしてそんな自分を嗤いたくなった。
(どうかしているな……。)
自分さえ認めていない私が、貴女に寄り添いたいなど………。
思わず浮かんだ苦笑が闇に紛れたことに安堵しながら、ただ彼女の靴の音に合わせた。
やがて見えてきた扉に、するりと儚い指が離れていく。
「送ってくれてありがとう。おやすみなさい」
こちらを見上げて微笑む彼女に笑みを返す。
「おやすみなさい、主様。よい夢を」
そっと扉がしめられ、小さな足音が次第に遠ざかっていく。
それを確認したのち踵を返した。
「……私も眠らなくては」
地下1階へと続く階段を降りていく。混沌とした思考を持て余したまま。