第4章 はじまりの夜
「貴女は強いのだね」
心からの言葉に、彼女の表情が翳る。
「いいえ………。私は強くないよ。——そうあるように見せているだけで」
告げながら、その両目が悲しみに染まる。
唇はみずからを嘲るように、苦い笑みを刻んでいた。
「主様……?」
とまどう瞳に笑みを返す。
「なんでもないの。………それより、はやく戻ろう」
先刻と同じ表情、同じひかりを宿す瞳。
それ以上問いかけることは、さすがに出来なかった。
(詮索など……主様を困らせるだけだ)
そっと彼女をみつめ、舌に乗った言葉を呑み下す。
彼女の痛みを分かつことが、私にできたなら。
滲んだ思いは寂しさに似た感情で、そしてそんな自分を嗤いたくなった。
(……どうかしているな)
自分すら認められない私が、貴女に寄り添いたいなど………。
思わず浮かんだ苦笑が闇に紛れたことに安堵しながら、歩みを進める。
やがてたどり着いた彼女の私室に、こちらを見上げて微笑んだ。
「送ってくれてありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ、主様。よい夢を」
微笑みを返し、部屋のなかへと入る背をそっとみつめる。
「……私も眠らなくては」
扉のしまった後、踵を返す。混沌とした思考を持て余したまま。