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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第1章 はじまりの夜


「…… ヴァリス様」

完全に足音が聞こえなくなったところで、その名を反芻する。



(あの背中の傷痕は、)

黒曜の片翅を見るも無惨に毟り取られたような形の、痛ましくも美しい傷痕。



(でも、あのしるしは———、)

まさか、彼女が……?



(いや——有り得ないよ)

その思考に苦笑に苦笑する。

邪念がこびり付くような頭を振って、夜空へと指を伸ばす。



空を仰げば、煌々と輝く三日月。

半ば以上を影に呑まれた———細く弓なりの姿の月が、何だか自分を嗤っているように見えた。



その月をつかむ真似をして微笑む。



「貴女の往きつく路を、私がお守りしましょう」

微笑を描く唇。

眼裏では美しいその姿が灼きついていて、いつまでも消えなかった。
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