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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


けれどその回想のような思考は、叩扉にかき消された。



「主様、起きているか」

声の主はバスティンだった。

少し待って、と声をかけ、一度深呼吸してみずからの思考と表情を切り替える。



「どうぞ」

その声の直後扉がひらく。カツ……と長靴の踵を踏みしめ彼が姿をみせた。



「失礼する」

そう告げ、彼女の部屋へと足を踏み入れてくる。穏やかないろの瞳で彼をみつめていた。



「どうしたの、バスティン?」

彼を見上げる瞳。

そっとみつめる眼差しに気恥しくなったのか、彼女から視線を解きながら呟く。



「主様、俺と来てくれないか? その……主様の時間が許すならばだが」

みずからの後頭部に指をかけ、遠慮がちに口にする。

そのぎこちなさに微笑むと、瞬く間にその頬に朱が集った。



「っ……笑わないでくれ、」

少しだけ厳しくなった瞳。そのさまにも微笑ってしまい、ますます紅くなった。



「ご、ごめんなさい。少し……意外だったから、」

くすりと彼女が微笑う。その声は彼女自身の耳にも楽しげに響いた。



「俺がこういう事が苦手だって、もう知っているだろう」

拗ねた調子で呟かれ、漸く笑みを収めた。代わりにその唇に微笑を描き彼を見上げる。



「何処へつれていってくれるの?」

悪戯めいたいろを瞳に宿し彼をみつめる。その瞳の先で、バスティンはかすかな笑みを描いた。



「それはまだ秘密だ」

手袋に包まれた片手を差し伸べられる。そのさまに優しく微笑って、

白くたおやかな指がふれ、そして重ねあわせた。



わく、わく、と高鳴る胸を抱えて。
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