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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


向かった先は裏庭だった。

さく、さくり、と長靴の踵で落ちた枯れ葉を踏みしめていく。



(先に着替えてから出てきたほうが良かったかも………、)

肌に触れる外気の冷たさにそっと身震いする。


少しでも暖を得ようと夜着の袖を摩っていると、

それに気づいたバスティンがみずからの魔導服のジャケットを脱ぎ、肩に着せかけてくれた。



「……ありがとう」

微笑むとその瞳が驚いたようにゆらめく。

そしてなぜか、ふいと視線を解きながら再度唇をひらいた。



「到着だ」

その声におもてを上げると。



「わぁ………っ!」

思わず感嘆が零れた。そこにいたのは、たくさんの野良猫たちだった。


にゃあ、………にゃあ。鳴きながらヴァリスを見上げるいくつもの眼に、自然とその唇が笑みを描く。


すり寄ってくる猫たちの毛並みをそっと撫でた。

甘えるように身を寄せてくるさまが微笑ましくて、しゃがみ込んでまん丸な瞳と合わせた。



「可愛い」

そっと指を伸ばして、そのうちの一匹の猫の喉元を擽ってみる。

ごろごろと満足そうな音が返ってきて、その瞳が解けた。



「ふわふわね」

笑んだ唇に柔らかな感情が滲む。そのさまを見てバスティンが唇をひらいた。



「気に入ってくれたか?」

「勿論!」と微笑って見せる。

鳴きながら集まってくる猫たちのその身の温かさに心からの微笑を浮かべた。



「ねぇ、………バスティン。どうして私にこの場所を教えてくれたの?」

穏やかに微笑う。その指を猫たちの毛並みに優しく這わせたまま問いかけると、

バスティンは再度唇をひらいた。



「あなたに気晴らしをと思ったんだ」



「私に……?」

猫たちに視線を落としたまま訊き返す。そして彼は、思いがけないことを口にした。
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