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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第1章 はじまりの夜


この世とは別の時空にある世界、デビルズパレスを囲むように鬱蒼と茂る森にて。



その日はグロバナー家に呼び出されていた。



「っふぁ、眠ぃ……。」

欠伸をかみ殺しつつ、馬を走らせ帰路に着く。

ボスキはガシガシと頭を掻きながら、

エルヴィラその人から直接伝えられた占いの結果をひもとく。



(『そう遠くない日に、

あなた達の「主様」がこの世界へと来訪するでしょう』———か)

魔女族の中でも指折りの能力を誇る彼女は、

決して嘘はつかない代わりに、曖昧な言い回しでこちらの心を揺らす。



けれどそれには悪意や邪な思考は存在せず、彼女なりの案じる思いが滲んでいるのだ。



(どんな方なんだろうな……主様は)



「ボスキさん、欠伸しすぎっすよ」

半ば呆れたような声に後方を見やる。少しだけアモンを睨むと、

「まぁオレもお堅い場は苦手っすっから気持ちはわかるっすよ」と笑った。



「ならいいじゃねえか。 ———うわ、」

森のなかを走らせていると、

ボスキを乗せていた馬が急に棹立ち、ぐいと身体の向きを変えた。



「どう、………どう」と片指を伸ばして馬の首を撫でる。

そして何気なく地面に視線を落として瞠目した。



「主様……!?」

そこに倒れていたのは少女だった。急いて馬から降り立つと、その頬にふれる。



「っ………。」

その肌は氷のように冷たかった。

ぺち、ぺちと軽く頬に指を打ち付けるけれど、瞼がひらく気配はない。



「ぅ……。」

彼女が眠ったまま身動ぎする。



その肩にみずからの魔導服のジャケットを羽織らせ、

馬のところまで運んで鞍に跨らせる頃には、いつの間にか頭上の雲は切れはじめていた。



ボスキは彼女の後ろに腰を降ろして、

自分の体温で相手を温めてやろうとその儚い身体を自分のほうへと引き寄せる。



(なんだ……?)
ふと視線を感じてさっと瞳を巡らせる。



「!」

そしてかち合ったのは光るふたつの眼だった。

憎しみを宿した紅が、こちらを睨み付けるように見据えている。



「ボスキさん?」
戸惑う声に笑みを返す。



「何でもねえよ。それより……早く主様を運ぶぞ」

森の外へと馬の首を向け、襲歩で走らせる。

冷たく湿った霧が淀みはじめ、冷気を運んできたからだ。
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