第1章 はじまりの夜
「…………。」
そうして森のなかを進みながら、
腕のなかの娘と、彼女が纏う儚げな彩色について思考に載せる。
背の半ばまで伸ばした、
銀の髪のところどころに淡い水色が混ざりあう、稀有で艶やかな髪。
少しばかり血色を欠いた唇。
傷だらけの白い肌は、こちらにその冷たさが伝う程に凍てつくようだった。
夜の帳が下りてきて、気温が低くなった。
ボスキがその肩にかけたジャケットを直すと、温もりを求めて彼の胸にすり寄ってきた。
「主様、もう少しだから頑張ってくださいっす」
みずからの横へとやって来たアモンが、同じく馬を走らせながら彼女の顔をのぞき込む。
眠そうに震える瞼を縁どる睫は、さながらビクスドールのように長かった。
「チッ、……チッ………。」と上手に向かって舌打ちをし、
一定の速度を保って、深い森のへりを目指した。
森の上では三日月は再び雲のヴェールを纏いはじめ、すべての影を濃くしていく。
やがて三人は森の外れと続く路に近づいていた。
フクロウが夜を告げ、草木の色を深める闇。それはまるで、彼らを静かに見守るように。
彼女が身動ぎして、何か呻いた。
姿勢が心地良くないのだと悟ったが、ボスキは速度を落とさなかった。
楽な姿勢よりも暖かな場所のほうが、彼女には必要だからだ。
「ぅんん………。」
彼女の瞼が重そうに震える。夢と現の狭間を揺蕩っているのだろう。
その手がだらんと落ちて、自分の手にふれたので、
ボスキは少しの間速度を落とし、彼女の指を組み合わさせて、それに自分の手を重ねた。
頭上では雲が切れはじめている。
月灯りが彼女の青い唇を照らし、白い肌に光のヴェールを授けていた。
ぐったりとした彼女の身体の冷たさがジャケットを介して感じられ、
ボスキは自分たちが凍える前に、
己の体温が少しでも彼女に伝わってくれるようにと願った。
馬を急き立て速度を上げる。アモンもそれに続いた。
路は起伏の多く、ところどころに大きな石が転がっている。
その狭間を縫うように進みながら路を急いだ。