第4章 病魔 前編
「主様、御準備はよろしいですか?」
叩扉のあと、とらえたのはルカスの声。
「どうぞっ」
そう言って扉をみつめる横顔は、いつものみずからのおもてへと戻っていた。
「失礼するよ」
コツ……と長靴を踏みしめて、ルカスが入室してくる。
彼のあとに続いて入ってきたのはベリアンだった。
「やはり、主様はどんな装いでもお似合いですね♪」
そう言って微笑みかけるルカスのそのおもては、どこまでも優しく、そして柔らかく和んでいた。
まっすぐな賛辞を向けられ、すこしばかり翳る瞳。
「そう、かな……。」
とまどいを映す瞳で見返すと、その頬にそっと彼の手が添えられる。
「はい、とてもよく似合っていますよ」
白磁の手袋を嵌めた手が、慈しむように頬をなぞる。
ふれた手の温かさにすこしだけ身を固くしていると、
見かねたベリアンがそっとふたりを引き離した。
「ルカスさん、主様に近づきすぎですよ」
常ならば温かさを讃えた瞳が、わずかな冷たさをはらんでいる。
そんな彼に慌てて告げた。
「いっ……いいのベリアン、私が慣れてないだけだから」
そう言って彼の腕に指をかけると、その瞳がわずかに揺れた。
(ベリアン……?)
はっとしたような、なにかを恥じているようなその表情に、彼女が唇をひらきかけた時。
「主様、そろそろ往かなくては………、」
控えめに叩扉され、響いたのはナックの声だった。
「うん、いま往くね……!」
ローブをゆらし扉へとつま先を目指す。
その姿が廊下へと消えたあと、ルカスは唇をひらいた。
「私達もいこうか」
微笑につられて笑みを返す。
「はい」