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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


「待ってっ………!」

彼女は飛び起きた。その頬を濡らす熱は、おそらく涙。



「いまのは…………、」

止めどなく伝う雫を手の甲でぞんざいに拭い、

みずからの身体を抱きしめるように指をかける。




けれどそれでも悪夢の余韻に沈む、その身の震えを抑え込むことはできなくて。




その時、控えめな叩扉をとらえた。




「主様、お召し換えに伺いました。入っても大丈夫ですか?」



「えぇ、すこし待って………っ、」

慌てて瞳をとじて、みずからの思考と感情を切り替える。



「どうぞ」

その声のあと、扉がひらく。

入ってきたのは、両手に箱を抱えたフルーレだった。



「主様………、」

そのおもてにすこしだけ瞳を翳らせる彼。

なにかを口にしかけたその唇に、つと指を置いた。



「少し……悪い夢をみたの」

先手を打って瞼を伏せる。みずからの内で宿りはじめた、

こころを移ろう胸騒ぎを半ばしたたかに上塗りながら。



「夢……ですか」

うん、と頷く。

先刻の夢のことをかいつまんで話すと、ふたたび滲むわずかな違和感。



「おかしいよね、夢のなかで小さい頃の自分の母親に会うなんて」

そう苦笑するおもてに、何処か苦々しさが滲んたことを自覚したまま嗤う。



言葉を探してひらいては閉じる唇に、ヴァリスは少しばかり瞳のひかりを和らげた。
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