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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


「ううん………、」

うとうとと、混沌へと沈みゆく意識。

その身を包む微睡みは、いつしか混濁を呼び醒ました。




一面の黒曜。見渡す限り、暗くくらく視界を塗りつぶしている。




その中心で、泣いている幼い少女がいた。

陽に透かした新雪のような、青灰色の髪。

その傷だらけの身体には、おおいに見覚えを感じた。



けれど『違う』。………その子は。



「貴女、どうしたの」

気づけばその肩に指をかけていた。

泣いていたその子が漸くおもてを上げる。



「母、さん……?」

その顔の造りは、母リラと同一だった。

昔、祖母の書斎でみたふたりの写真と同じ、幼い頃の母そのものだった。




とまどっていると、母その人が唇をひらく。




「どうして……一緒に死んでくれなかったの」

淀む瞳は彼女だけを映している。


訳の分からず見返すと、その指が伸びてくる。

ふれた手は、氷のように冷たかった。



「思う路に進んだよ」

そう返すけれど、母は唇をかみしめた。



「おまえは逃げた。………傷つかない路へと逃げた。

また裏切られるのが怖かったのでしょう?」



「それは………っ!」

やっとの思いで口にしたのは、曖昧な肯定に等しい声。

そんな娘のさまに、そのおもてがわずかな憤りを滲ませた。



「どうして、私を選ばなかったの。どうして………、」

母の姿が歪み、そして闇に呑まれて消えていく。

ヴァリスは届かぬ指を伸ばした。
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