第4章 病魔 前編
「いつか、あなた達に返せるようになるね。
………私みたいな女に、与えてくれた温かな全てを」
卑下の言葉に、寂しそうに瞳をゆらめかせるベリアン。
自分こそが痛みを享受しているような、哀しみを滲ませた眼差しだった。
「そんな……貴女は、」
紡ぎかけた言葉を、軽く手を上げることで封じる。
一瞬にして凍てついた瞳で、その両眼をみつめ返した。
「言った筈よ、私を『美しい』と称したら許さないって」
酷く軋む心。この身を苛み続ける後悔の鎖。
ふれようとした指を拒み、仮面のように擬似的な笑みを貼りつける。
「もう下がってくれる? この話はしたくないの」
しばし瞳が見交わされ。その奥に隠した、本心を探りあうように。
ややあって、先に引き下がったのはベリアンのほうだった。
「申し訳ありません。———では、また」
「……うん」
そっけなく応じると、ふいと視線を解く。
かんだ唇がふるえて、
みずからの内で暴れる苦々しさを悟られぬよう、必死に抑えつけた。
「っ………。」
扉がしまった後、寝台へと倒れ込む。
眼をとじて、この内を満たしている苦い感情を追い出そうと試みた。
けれど瞼の裏で映し出されるのは、ベリアンの悲痛な瞳だけで………。
きつく瞳を封じて、眠るようみずからに命じる。
けれもそれでも、眼裏から彼のおもてが消えることはなかった。