第1章 竹取物語
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涙がようやく収まったと思ったそのとき、彼の手がそっと私の肩に触れた。
「…僕はさ、君を死刑になんてさせたくないんだ。」
静かな声だった。でもその声は、まるで心の奥底まで真っすぐ届くみたいに響いた。私は小さく瞬きをして、彼の顔を見上げる。
「君の力は、使い方ひとつで、たくさんの人を救える。」
私は、何も言えなかった。
信じられないと思っているのに彼の言葉を嘘だと一蹴することはどうしてもできなかった。
「選ぶのは君ってことにしてあげてもいいけど」
彼は少し息をついて、私の前にしゃがみ込んで、目線を合わせてくる。目が、まっすぐだった。逃げ場なんて、どこにもなかった。
「君の処遇は、僕が決める。もう、難しいことは考えなくていい。」
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
彼の言葉に期待した。
「君を呪術高専に連れて行く。君には学ぶべきことがあるし、僕にも、教えたいことがある。」
“おいで”とも“決めろ”とも言わない。
ただ、彼の手があたたかく、逃げ場がなくて、でも不思議と怖くなかった。
「僕、五条悟。」
「香久夜…、です。」
「よろしく、」