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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第1章 竹取物語





「…かぐや姫は、人間ですか?」


「え?」


「化け物を呼んで、大切な人を殺した私も、化け物、ですよね」


こんな時に、涙も出ない。
うすうす、解っていたの。両親が死んだのは、私のせいだって。



「私、死刑になるんですよね。」




彼は何も言わない。





「……残念ですが、受け入れます。」


喉の奥が酸っぱくなった。





…やっと終わる。




そう思って、乾いた瞳を閉じた時。







「…ダメだよ。ここで自暴自棄になったら。」





黙っていた彼からそんな言葉が聞こえた。
彼は私の腕の縄をほどき、そのまま手を取った。



私はただひたすら彼の動作を目で追った。

ゆっくりと指をから見つけ、わたしの拳を少しずつ、開いていく。



「今それを選んだら、君は一人で立てなくなる。
力の使い方次第で、君は多くの人を救えるんだ。」



気づかないうちに拳を強く握りしめていたようで、爪が食い込んで手が赤くなっていた。


…わたしが、多くの人を救えるわけが、ない。



「わたしは、



…人殺しです」



口に出した時、涙が溢れた。
見て見ぬふりをしていたときには感じなかった心が
一気に溢れてしまった。


彼は、何も言わなかった。
どうしていいか分からなかった。


ふと、小さな気配がした。

「人が死んだ理由に、”君がいたから”を挙げるなら
僕もとっくに戦犯だよ。」


…え、
独り言のように発せられた言葉に私は息をのむ。彼の言葉はまるで冗談のようだったけれど、そこには確かな重さがあった。
次の瞬間、
肩にあたたかい手が添えられた。

びくりと体が反応した。



「一人で、怖かったね。」




彼の手は、そのまま、私を包むように抱き寄せた。



その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に、そっと触れられた気がした。
ずっと誰にも触れてほしくなかったはずなのに。
ずっと一人でいなきゃいけないのに。



「――君が、生きててよかった」



彼の声が、私の耳元でふるえた。
思いがけないその一言に、息が詰まった。



生きてて、よかった?




何かが壊れたように、次の瞬間、涙がとめどなくあふれた。


最初の涙よりもずっと激しくて、深くて、

息をするのも苦しくなるほど、涙があふれて止まらなかった。




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