第2章 寮の怪異事件
食堂には、ほのかに出汁の香りが漂っていた。
朝の光がやわらかく差し込み、まだ静かな空間に、湯気がふんわりと立ちのぼる。
私は少し緊張しながら、お味噌汁の湯気をぼんやり見つめていた。
その隣で伏黒くんは、黙ってごはんを口に運んでいる。さっきまでは、風呂場であんなことがあったのに、彼は何事もなかったように、いつも通りを貫いている。
「……あ、あの、改めて……本当にごめんなさい」
恐る恐る謝罪を言うと、伏黒は少しだけこちらを見たあと、
「……別に。見張り役って言われてるだけだから」
と、そっけなく答えた。お、怒ってるかな…。
気が気でなくてご飯が進まずにいると
ゾロゾロと足音が聞こえてきて、食堂のドアが開く。
「おはよう、あの、さっきはほんとにごめんね、」
「ツナマヨ」
そう言って入ってきたのは、さっきの二人。少し汗ばんだ額をぬぐいながら、ぺこりと頭を下げた。
「あの時間、朝のトレーニングの後にいっつもシャワー浴びてて、時間被っちゃって…」
「乙骨先輩、俺のほうこそすいません。知らずにこいつ案内しちゃって。」
伏黒が代わりに謝る姿はまるでの保護者のようだった。
乙骨くんは、やたらと申し訳なさそうに、しきりに頭を下げてくる。隣にいたツンツン頭の方とも、ぱちっと目が合ったが、恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまった。
そんな中、
「おーっはよー! いやぁ、聞いた聞いた、朝から男子寮がめっちゃラブコメ空間だったって?」
軽いノリで現れたのは──五条先生だった。