第2章 寮の怪異事件
気がつくと、私は知らない天井を見つめていた。
静かで、木の香りがして、少し肌寒い空気。
どこか遠くから鳥の声が聞こえた。窓の隙間から差し込む朝の光が、まぶしくて目を細めた。きっと、まだ早い。
「…………ん」
起きたばかりの体はまだうまく動かなくて、まばたきを繰り返す。夢の中と、現実の境目がまだふわふわしている。
──でも、ちゃんと覚えてる。
あの人に言われた言葉。肩をぽんって叩かれて、『呪術高専に連れて行く』と決まったこと。
「…………来ちゃったんだ、私」
小さくつぶやくと、自分の声が妙に響いた。
でも、布団の感触がふかふかで、冷たい山の空気がすこし肌に触れて、なんだか少しだけ、心が落ち着く。
“今日から、ここで生きるんだな”って、ぼんやりと思っていると、
コンコン。
木製の扉が控えめに叩かれた。
「起きてんなら、出ろ。朝ごはん行くぞ」
扉の向こうから、くぐもった声。聞き覚えのある、低くて少しぶっきらぼうな少年の声。
すぐに出ようと思ったけれど、一瞬、ある考えがよぎり扉を開ける手が止まった。
「…あの、」
「ん?」
「き、着替えって、ありますか…?」