第3章 デコレーション
「うぅっ!?」
大瀬さんの手から落ちた小さなものが胸元に落ちていき、それを慌てて大瀬さんが押さえる。
その位置がきわどかった。
ただの首元と言えるか、胸のふくらみと言うべきか、ギリギリのライン。そこに、小さな飾りを挟んで大瀬さんの指が触れている。
(私はどうしてこんなにも襟の開いた服を着ていたのか!!!!)
嘆いてもしょうがない。
「す、すみません。少し指を動かします。指を離すと中に入ってしまうので」
「わ、分かった」
たどたどしい動きで指を動かす。
飾りは小さいので、どうしても大瀬さんの指が肌に触れる。
(ひぃ~~~~っ!!)
顔が熱すぎてどうにかなりそう。
大瀬さんが飾りを取っている数秒が何時間にも思える。
「取れ、ました」
「よかった……」
「すみません、自分のようなクソ吉が天音さんの素肌に触れてしまうなんて重罪ですよね。死刑ですよね。せめてものおわびに今日中に死にます」
「ああああああああああ! 待っっっっって! 全っっ然気にしてないから! むしろ首輪をデコレーションしてくれてありがとう。感謝してる!! 長生きして!!!!」
危ない危ない。うっかりすると大瀬さんはすぐに死のうとしてしまう。
なんとか踏みとどまってもらい、大瀬さんは三度作業に取り掛かる。
それからしばらくして。
「できました」
首輪のデコレーションが完成した。
大瀬さんと一緒に洗面所に向かい、そこの鏡で首輪を確認する。
「わぁ……!」
今朝まで犬の首輪にしか見えなかった代物が、アンティーク調のおしゃれなチョーカーに大変身していた。激変ビフォーアフターってやつだ。
「どうでしょうか?」
「うん! すっごくいい! ありがとう、大瀬さん」
「っ! へへっ」
「!」
大瀬さんが、笑った。初めて見た。
そもそも部屋から出てこないから姿を見ることがないし、出てきてもビニール袋被ってたりうつむいていたりして顔をよく見ることはできない。
たまに見る顔も悲し気で、こんな風に笑うなんて知らなかった。
なんだか、すごく得した気分の一日だった。