第2章 乙女ゲーム
誰もいないリビングで私は携帯ゲーム機のスイッチを入れた。
イヤホンからはイケメンの声が流れ出て、鼓膜を幸せに震わせる。
私は、趣味の乙女ゲームをしていた。
今日はいよいよ本命の攻略。
気合を入れて画面を見つめていると――。
「そんなところで何してるの、ゲーム?」
「うっわぁ! テラさん!?」
まだ帰って来る時間じゃないはずなのに、どうしているの?
「お、おかえりなさい。早いですね」
「うん。色々変更があって、今日やれることなくなっちゃったの。それより天音は何してるの?」
「ゲーム」
「それは見れば分かる。なんのゲームをしてるの?」
「乙女ゲームって分かりますか? イケメン攻略するやつなんですけど」
ぴくっとテラさんの眉が動いた。
「イケメン? ゲームに頼らなくても天音にはいい男がいるでしょ」
「え?」
「テラくん」
「テラくん……? うーん……」
乙女ゲームの攻略対象に張り合う人初めて見た。
張り合われても困る。ゲームはゲーム、現実は現実だ。
それに残念ながらテラさんはジョージ様(私の推し☆)と違ってモンスターを召喚できない。
私が煮え切らない返事をしたから、テラさんは機嫌を損ねてしまった。
「じゃあテラくんが審査してあげる」
「審査?」
「天音に相応しい男なのか見極めるの。貸して」
そう言ってテラさんは私の手からゲーム機を取り上げてしまう。