第1章 首輪
「はいこれ。プレゼント」
とある休日のお昼。
依央利さんが私に手渡してきたのは首輪だった。
(首輪……)
チラッと依央利さんの首元に目をやる。
依央利さんはいつも首輪をつけている。
奴隷だからだそうだ。
「えーっと、これは私を奴隷にしてやろうみたいな?」
私を奴隷仲間に引き入れたうえで、奴隷内カーストを築き上げて私をこき使おうというの?
「そんなわけないです。奴隷は僕だけ。僕だけが奴隷。……そうじゃなくて、これはリモコン」
そういえばいつかのクリスマスで依央利さんが他の皆にクリスマスプレゼントとして『依央利さんが着けている首輪を電流を流すことでコントロールできるリモコン』をプレゼントしたそうだ。(当然拒否された)
ということは、またもさらなる奴隷の高みを目指しているのか。
「これは首輪でしょ? リモコンの方をちょうだい」
「これは首輪型のリモコンなんだ」
「首輪型のリモコン……」
思わず復唱しちゃった。
「そう。だから――命令して」
甘い、うっとりとした声音。
柔らかいのに有無を言わせない不穏さがある言い方をするのは依央利さんの特徴だ。
「僕にして欲しいことをなんでも言って。僕は奴隷なんだから。そうそう。首輪をつけたらこの契約書にサインと捺印を」
またいつもの契約書か。
首輪をつけながら契約書を机に置く。
(これ拒否ると長いんだよな)
変なことが書いてなければサインしようと前向きな気持ちで契約書を眺めてギョッとした。
「これ……婚姻届けじゃん!!!!」
「生涯奴隷契約書です♪」
「なんてものにサインさせようとしてるの!!」
「お揃いの婚約首輪だってつけてるじゃないですか」
「婚約首輪!? なんだその倒錯アイテム!! この首輪そんな意味だったの!?」
冗談じゃない。婚約首輪なんて着けてられないよ。
「あれ……外れない!」
「簡単に外れたら困るから、一度つけるとロックがかかるようになってるんです。鍵はちゃんと僕が管理してるから安心して」
「安心できる要素がないんだけど!!」
「ほら早く、サインと捺印」
じりじりと迫ってくる依央利さんとの攻防は、帰ってきた理解さんが止めに入って終結した。
なお、首輪の鍵は手に入らなかった。