【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第2章 奇跡の出逢い【1月】
side.仁王雅治
俺はお気入りの海に来ていた。
このくそ寒い時期にここに来る奴などいない。
精々物好きの釣り人くらいで、女がいたことはなかった。
なのに、今日は珍しく女がいるなと見ていたら目が合ってしまったのだ。
まるで、お忍び芸能人にでも出くわしたような反応に思わず苦笑する。
まあ、この女も一緒じゃろ。
多少好みの女だったら遊んでやらないこともない。
しかし、先程から食い入るように見てくるこの女は、見た目擦れてない感じがする。
俺の苦手とする“一途な女”の分野に値すると見た。
関わったら厄介そうだ。
女を軽く値踏みして、その場を去ろうと考えた時だった。
微かに聞こえた女の声にドクンと鼓動が高鳴る。
風が強く、聞き逃してもおかしくない程小さな声。
それでも、確かに届いた。
女が俺の名前を呼んだのだ。
“仁王雅治”と。
「………お前さん。何で俺の名前知っとんのじゃ?」
驚きを隠せずに目を見開いて問えば、俺同様に驚く女。
「いや、何でって…。けっこう有名ですよ」
「何で俺が有名なんじゃ」
「いや、だって立海のレギュラーだし…っていうかコスプレ?えっ?夢?からかってますよね?」
俺を覚えていた唯一の女。
偶然に近い奇跡の出逢い。
これが俺と君の運命の始まり。