【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第36章 長閑な昼休みの事件【6月】
side.幸村精市
後ろにいる名前を見ると、2人が去ったドアをしょんぼりとした顔で見つめている。
その瞳は捨てられた子犬のようだった。
胸がキューンとなる。
そんな顔をしたって、2人は戻ってこないよ?
委員会なのだから仕方ない。
そう言い聞かせるように、お弁当箱に視線をおとす名前。
その姿は、まるで幼子が母親を待っているような、哀愁漂う健気さが感じられて、思わず抱きしめたい衝動に駆られた。
ダメだっ!!
抑えろ、精市!!
ここは教室だ!!
拳を握り“ギリッ”と奥歯で噛み殺す。
理性崩壊寸前の俺の顔を、クラスメイトが三度見しているが、正直どうでもいい。
今、俺は天秤にかけられている。
名前の王子様or犯罪者。
選ぶなら当然前者だ。
理性が勝った。
「名前?」
「あっ、うん?何?」
「今日は俺たちと一緒に屋上で食べないかい?」
「えっ?」
「1人ぽっちじゃ寂しいだろ?」
「いいの?」
俺の誘いが余程嬉しかったのか、暗かった表情を見る見る明るくする。
ああ、可愛い。
長閑な陽気の昼休み。
俺は名前を連れて屋上へ向かった。