【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第3章 彼の事情【1月】
side.名前
「楽しそうな顔してる」
そう。
彼は微笑ましいくらい楽しそうに、それでいて真剣にプレイしていたのだ。
あれが、本来の彼のテニスなのだろうか?
分からないけれど、私は彼に魅せられていた。
「このゲームでラストでーす」
館内に響いた声に、終わりの時間なんだと気付かされる。
かれこれ1時間くらい彼のプレイを見ていた。
たぶんこのスクールでは彼が一番強いと思う。
気持ちがいいほど、キレイなテニスだった。
そして目を奪われてしまうくらいかっこよかった。
女の子だったら騒ぐわけだ。
そんな彼は現在ゲームが終了し、コート整備をしていた。
これが終わったら彼に声をかけよう。
そう思った時「お兄ちゃん!!」と一人の少年が仁王さんの元へ走って行く。
「ん?なんじゃ?」
「どうしたら、お兄ちゃんみたいに強くなれますか?」
彼は少年と目線が合うように屈んだ。
その表情はとても複雑そうだった。
「そうじゃなー。まあ、たくさん練習するのは当たり前じゃき。他には目悪くならんようにして、テニスを楽しんで、テニスをしとる友達を大切にすれば、上手くなる」
「本当?」
「…ああ、本当じゃ」
「ありがとう!お兄ちゃん」
お礼を告げて、走り去って行く少年を見つめる仁王さん。
さっきまで、あんなに楽しそうにプレイしていたのに、何で?
何で…
そんな今にも泣きそうな顔をしているの?
声をかけられず、私はただ呆然とその光景を見ていることしかできなかった。