【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第3章 彼の事情【1月】
side.仁王雅治
“苗字名前”か…。
海から帰ってきて早々、自分のケータイに新たに登録された名前を見る。
俺を覚えていた初めての存在に、自然と頬が緩んだ。
彼女の年齢は聞いていないが、恐らく俺と近いだろう。
俺はこの世界で初めて自分の居場所を見つけた気がした。
彼女の側にいたい。
そうすれば、この虚無感が少しでも和らぐかもしれない。
必要最低限の物しか置いていない自室に、唯一大事に置いてあるラケット。
それは、この世界に来て初めて自分で稼いだお金で購入したものだ。
ラケットを見て、思い出す名前の言葉。
「イリュージョンねぇ…」
俺は自分に自信がなかったんだと思う。
イリュージョンで色んな奴の真似をしているうちに、自己喪失をした。
そんな時に“テニスの王子様”から外された俺が、辿り着いたのがこの世界。
俺は本当に自分がテニスを好きだったこと。
仲間が好きだったことに気づいた。
しかし、今頃気づいたとしても、来た理由も知らなければ、帰る方法も分からない。
この10年運良く生きてこれたと思う。
生きがいはテニスだ。
正直テニスがなければ、生きようとも思えなかったかもしれない。
ずっと感じていた疑問が脳裏を掠める。
俺は要らない存在?
そんなことを考えて寝つけずにいた今日、出会ったのが彼女だった。
「テニス…しようかの」
ラケットを手にして呟いた。
なんとなく名前に俺のテニスを見て欲しいと思い、ケータイを手に取る。
彼女は来てくれるだろうか?