【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第3章 彼の事情【1月】
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考えてみて欲しい…。
世間を何も知らない高校生がいきなり親も友達も誰もいない世界に放り込まれ、孤独な社会に曝される恐怖。
社会人になった今だからこそ、その恐怖が分かる。
年の功で生き延びることは可能かもしれない。
しかし、もし高校生の時、自分の身にそんな事態が起こったなら、私はどうしたのだろう。
想像しただけでゾクリとする。
「正直な、テニスがなけりゃ生きようとも思えんかった」
「テニス?」
「そうじゃ。テニスが俺の生きがいじゃ」
そう言う仁王さんの横顔は、なにかを懐かしむような優しい表情で海の彼方を見ていていた。
北風が強く、冷たい空気が私たちを取り巻いている。
そんな中、朝日を浴びながらテニスについて語る仁王さんはとても暖かい目をしている。
まるで寒さなんて感じていないようだった。
本当にテニスに対する思いだけで、この10年彼は生きてこれたのだろう。
私にそう納得させるには十分な瞳をしていた。
同時に、そんなにも夢中になれる生きがいを見つけている彼をとても羨ましく思った。
私には何もないから…。
「仁王さんの得意なプレイスタイルって、イリュージョン…でしたっけ?」
「、!!よく知っとるな」
「まあ、本を読んだことはあったので」
「そうか…」
一瞬、驚いてこちらを見たが、すぐにその視線は海へと戻ってしまう。
彼の複雑そうな表情から、この話の続きは聞けないと悟った。