【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第3章 彼の事情【1月】
side.名前
「………それは、え、と、大変、でしたね…」
「お前さん、もっと気の利いたこと言えんのか」
心底呆れたような顔で私を見る仁王さん。
ご尤もな意見である。
漫画の世界の住人である彼が、何故、今、私の目の前にいるのか?
その経緯を簡単に説明するとこうだ。
“10年前にトリップした”
駄目だ。
簡潔すぎる…。
緊張のあまり頭が全く働かない。
寝不足のせいか!?
いやいや、相手はあの仁王雅治だ。
緊張しても当然だろう。
しかし非現実的な体験をした彼の苦労を「大変でしたねー」で片づける私は、本当に気が利かないと思う。
「すみません、なんか寝不足で頭がおかしいというか、夢のような話というか、現実味がないというか…」
「お前さん、例えが多すぎじゃ」
そう言ってキレイ微笑む仁王さんは、至極美人で、その笑みを向けられた私の心臓は否応なしに高鳴ってしまう。
このまま壊れやしないかと心配になる程だ。
それを誤魔化すように「それにしても、何で私は覚えているんですかね?」と尋ねてみる。
「何でじゃろーな?俺も俺のこと知っとるやつ初めて会うたぜよ」
「へえ…」
「じゃけえ、お前さんが俺を覚えとってくれたんは、正直嬉しい」
その後も、私に並んで座り込んだ彼は、今に至るまでの苦労をまた話し始めたのだ。