第1章 愛しの及川さん
3.見せて欲しいの
「ってさ…」
「うん」
「人たらし…だよね」
「そう?」
「うん」
人たらしではないと思う。
私が優しくするのは徹だけだもん。
背中に回された彼の手に力が入る。
私も徹を自分の胸に抱き寄せた。
彼の肩が震えてる。
私の服が濡れていく。
やっぱり我慢してたんだね。
漸く泣いてくれた。
「徹。好きだよ」
今まで言えなかった想いが、こんな形でポロリと零れた。
マネージャーの私は選手のメンタルに気を使う。
だから言えなかった。
徹への気持ちを伝えたら、きっと徹のバレーに影響を及ぼす。
そう思ってたから。
弱みに付け込むような真似をしてるのは分かってる。
でも徹はいつも笑顔で誤魔化から。
いつか壊れてしまいそうで怖かったの。
徹は涙目で私を見上げた。
「ほんとに?」
「うん」
「こんなカッコ悪い及川さんでも?」
「うん」
視線が重なる。
私は絶対に目を逸らさない。
どんな情けない姿でも、本当の貴方を見せて欲しいの。