第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
手を後ろで組み、少し前のめりに私に微笑む男性の笑顔が眩してくて目が泳いでしまう。
「えっと…」
「中へ、どうぞ」
少し聞き取りにくい日本語で話す碧眼の男性は、組んでいた手を解き、店の中へと促してきた。
一度は引き返そうとしていた足を男性の方へ向けて、扉を開けてくれてる男性へ近づいた。
とても断れる範囲ではない。
「はい…お邪魔します」
戸惑いながら一歩店へ足を踏み入れれば、異国へ来たような空気に包まれた。
毛足の長い絨毯は、フワフワとしていて並べられた品々は見たことのない珍しい物ばかり。
「いかがかな? お嬢さん。お探しの物があれば何なりと」
「すごく綺麗です。でも初めてみる物ばかりで…」
お皿一つとっても、金色で模様描かれていたり装飾が施してある。あまりにキラキラした空間に目が喜んでしまう。
「あっ! 何か、男性の疲れを癒してあげられるような物はありますか? それから…仲直りできるような物だったらいいな…なんて」
杏寿郎様にお土産を買って行こう。ずっと任務漬けだったのだから何か癒しになる物を。
そしてちゃんと謝ろう。意地を張ってしまってごめんなさいと。
「仲直り…。でしたら、これはどうでしょう?」
碧眼の男性はニッコリ笑って見せて、棚から何かを一つ取ると、大きな手のひらの上に乗せたガラス瓶を差し出した。優美なガラスの瓶の中でゆらりと揺れる液体。外で感じた香りの正体だとすぐにわかった。
「香水ですか?」
こんなに近くで見るのは初めてだ。
「えぇ。香水です。貴女にぴったりの香りだと思いましてね」
「でも、男性に差し上げるには…」
不向きだ。
男性への贈り物と伝えたはず。でもこの香水は見た目も香りも明らかに女性向け。けれど、目の前の碧眼の男性はにこにこと笑顔をくすさずに私を見つめたまま。
「この香りを纏った貴女が、贈り物です」