第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
なんと大胆な人なんだ。異国の人はみんなそうなのだろか…。失礼な事を頭に浮かべてしまった。
「なっ! そ、そ、そんな大胆な事!!」
「ただ香りを纏うだけで良いのです。貴女の体温で溶けた香りは、貴女の香りとなって男性を癒してくれます。至福の時を与えられる。何よりの贈り物だと思いませんか? 仲直りにも一役かってくれるはず」
甘い香りと、直球な物言いの衝撃で頭が良く働かないけれど、『至福の時を与えられる』なんて魅力的な言葉だろうと思った。
杏寿郎様の疲れを癒せるなら、この男性の言う通り何よりの贈り物。仲直りできるなら尚更だ。
「試しに香りを纏ってみますか?」
じっと小瓶を見つめたままの私に男性は提案した。顔を見上げれば、碧眼を細めてにっこり笑って見せる。
「いいのですか?」
「えぇ。もちろん! 香りは好みが分かれますからね。貴女の鼻で、愛おしい人がこの香りが好きかどうか確かめてみて下さい」
「はい…」
「さぁ、手首を出して」
「へっ? あっ! はい!」
言われるがまま、両手首を差し出すと、シュッと軽い音と共に、甘い甘い香りが辺りを包んだ。
「手首同士を擦り合わせて、左右の耳の下に着けるのです」
「こう…ですか?」
「はい。お上手ですよ」
言われた通り、手首同士を擦り付けて耳の下に香りを乗せた。すると不思議と香りが強くなる。
「これは、ヘリオトロープと言う香水です。恋の花と言われている花から出来ています。花言葉は献身的な愛です。それからヘリオトロープとの名の意味」
「意味は…?」
「太陽に向かう」
それを聞いた途端、電流が走る感覚がした。まるで運命の出逢いかのようで杏寿郎にぴったりな香りだと思った。香りも甘くて蕩けてしまいそう。きっと好きなはず。
「ヘリオトロープ、いただけますか?」
「えぇ! お気に召したようで良かった」