第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
はなの向こうに見える桜は、俺の視界いっぱいに広がっている。
まるで桜は君のことが好きなのではないとかと思うほど、はな美しく引き立てていて、嫉妬心まで生まれるほどだ。
俺の髪を漉き、髪についた花弁を一枚取って『桜と俺は良く似合う』と笑う君に、膝から頭を浮かせて近づいた。
「また来年もここへ来よう。再来年もだ…。君と俺と」
はなは約束が特別な意味を持っていることを良く知っている。明日がわからない身だ。俺たちは安易な約束はしない。果たせなかった時、相手を苦しめるからだ。特に桜の約束は、毎年思い出させてしまう。
だが…俺は君と約束をしたい。必ず君の元へ帰ると。そして来年の約束を再来年の約束をしたい。
まっすぐ見据えて約束を囁くと、揺れる漆黒の瞳から一筋の涙が溢れた。
「約束です。必ず見に来ましょうね」
「あぁ、約束だ」
流れる涙を唇で受け止めた。
君の涙はいつだって美しいが、できるなら嬉し涙が見たい。今日のように、桜色に染まった頬に流れる涙、桜色の涙が見たい。
悲しみの涙は俺は全て拭うと約束する。
はな、俺は君を愛している。
この桜が朽ちないように、俺の想いも約束も朽ちることはない。