第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
愛らしい、と何度も軽い口づけを交わすと、誰もいないことを良いことに止められなくなりそうになる。
「このままでは、止められなくなってしまう。この辺で花見といこうか」
「そうしましょう」
繋いだ手はいつの間にか項に添えていて、項をするっと撫でた手が頬を包んだ。
「また…今日も君を感じたい」
「今日はお二人が…いらっしゃいます…ので」
「だめか…? ならば俺の部屋で寝てくれるか?」
「はい…眠るだけなら…」
花見をしようといいながら、夜の約束を取り付ける俺に呆れてもおかしくないはずだ。それでもはなは恥じらいながらも俺を受け入れてくれる。
名残惜しくも頬から手を逃がすと、敷布を敷き手招きをしてはなを呼び寄せた。
「さぁ、花見をしよう!」
はなは敷布の前で草履を脱ぐと、俺の草履の隣に並べて嬉しいそうに眺めてから俺の隣に座った。肩が触れる距離は、密な関係の証だ。この空間にはなが自然と入ってくれることが、また一つ関係が進んだようで嬉しくなる。
「杏寿郎様がお作りになったお弁当楽しみです!」
期待に胸を膨らませたようなキラキラした目で、包みを解く俺の手元を見ていたはなが、とびきりの笑顔で俺を見る。
愛らしすぎて、危うく押し倒しそうなった。
「あまり期待しないでくれ」
重箱の蓋を開けると、陽光を浴びたせいか屋敷の中で見た時よりと色鮮やかに見える。
千寿郎に教えてもらった通りに隙間なく詰め込んだ。食べる姿を想いながら。はなは何から食べるだろうか? はなは甘めの卵焼きが好きだったな。はなは…はなは…。俺の頭は君のことばかりだ。
「わぁ! とっても美味しそうです!」
皿におかずを一つずつ乗せて手渡せば、目を輝かせてじっと皿を見つめている。
粗がみえない内に食べてしまって欲しいが、そんな俺の気も知らずに君は嬉しそうに見つめたままだ。
「千寿郎に教わりこそしたが、作ったのは俺だ。君の口に合うと良いが…」
俺の視線を受けながら、いただきますとぱくりと卵焼きを口に入れた。
「んんっ! 甘くてふわふわで美味しいです!」
「そうか! 口に合ったか!」
ほっと胸を撫で下ろし、同じように卵焼きを口に含むと、甘みが口の中に広がった。