第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
はなはきっと桜色の着物を選ぶ。俺は若草色の着物にした。
大きな包みの重みを感じながら玄関ではなを待つ。この包みは、千寿郎からの教授の元、俺が四苦八苦しながら作った弁当だ。
やりすぎた詫びを考えた結果、弁当を作ることにした。
これで少しは思い出作りに花を添えられるだろうか。
「杏寿郎様、随分と大きな包みですが…全部お弁当でしょうか?」
「あぁ! 腹が減っては桜も楽しめんだろう?」
思った通りの桜色の着物に身を包んだ君は、俺の持ち上げた包みを見てニッコリ笑った。下ろした艶のある髪を耳にかけるた。手首には橙色と空色の髪紐が仲良く並んでいる。
「行こうか」
差し出した手に、小さな手が重ねられた。
***
日差しも程よく。時折吹く風はまだ少し冷たいものの、この気候は歩いて上がった体温にちょうど良い。
散歩を兼ねた花見の逢瀬だ。のんびりはなの手を引いて春を感じた。
時間は有限だ。どこか生き急いでいた俺は、はなと出逢い時間を贅沢に使う喜びを知った。
今もそうだ。はなの歩幅に合わせて一歩一歩を大切に歩む。
時折立ち止まり空を見上げて、ゆったりと泳ぐ雲を見る。
あの雲は団子のようだ、とか…さつまいものようだ、とか。笑い合って。
ゆっくり歩いても、君と共にする時間はあっという間に過ぎてしまい、気づけば桜の下に行き着いていた。
「おぉ…見事だな。昨日の雨を心配したが…」
ハラハラと花弁が舞う中に佇むと、視界いっぱいに淡い桃色が広がった。
時間が止まっているかのような静寂中、はなの体温を片手に感じながら落ちる花弁を目で追うと、生きていると言う実感が体の奥底から湧き上がってきた。
「良かった…間に合って…」
呟いたはなを見ると、優しく顔を綻ばせている。繋いだ手を引き寄せて、腰を屈めると静かに唇を重ねた
「桜も美しいが、はなに勝るものはないな」
君は美しいと、何度も伝えてはいるが、その度に桜色に頬を染めて目を伏せて微笑む君が堪らなく愛らしくて、抱きしめる腕に力が入ってしまうのだ。
「そんなに褒めて頂いたら…何も言えなくなってしまいます」
「君は本当に…」