第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
完全に出ていく時宜を逃してしまい、暫く二人を見守っていると、
「ハナおはよう」
厨の入り口から杏寿郎様がひょこっと顔を出した。
「あっ…えっと、おはようございます」
忘れていた。杏寿郎様は気配を探れるのだった。
「今日は、待たせてしまったお詫び…とまではいかないが、俺が弁当を作ろうと思ってな。と言っても千寿郎に教えてもらいながらだがな」
「杏寿郎様が作って下さるのですか? 私すっかり寝坊してしまって…」
すると千寿郎君も満面の笑みを称えて厨から顔を出す。
「ハナさん! おはようございます。晴れて良かったです! 兄上のお弁当楽しみにしていて下さいね! ハナさんは支度してきてください」
兄弟に同じ笑顔を向けられてしまって、寝坊もたまには悪くないかも、なんて締まりの顔をパチンと叩いた。
「では、お言葉に甘えて、私は支度して参りますね」
「あぁ! そうするといい! こちらは任せてくれ!」
杏寿郎様の元気な声に背中を押されるように自室へ戻り、着物を選ぶ。桜に合わせて、淡い桃色の着物にしよう。帯締めは杏寿郎様にいただいたもの。
髪は今日はおろしていくから、髪紐は手首に結おう。
化粧もいつもより華やかにして。