第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
それから、杏寿郎様の『うまい!』を聞きながらうな重を並んで食べた。
心もお腹も満たされて、幸せな眠りについた私は、柔らかく差し込む陽射しに起こされた。
「晴れてる…」
サラサラと葉擦れの音に乗せて、鳥が花を啄む声がする。
お天気が嬉しいのはみんな同じ。
お花見日和だ。お花見…? お花見!! お弁当!!
目覚めきっていなかった頭が一気に冴えた。急いで身支度を整えて、杏寿郎様がまだ眠っていることを願って厨へ走る。
あと数歩で厨と言うところで、話し声が耳に届いて足を止めた。
「兄上! まだ早いです! もう少し火が通ってから巻いて下さい」
千寿郎君の焦った声の後に、甘い香りが漂ってきた。
たまごにお砂糖が入ってる香り。たまご焼きの香りだ。
「そうか! すまない。……そろそろ良いだろう?」
「兄上はせっかちです! これでは破れてしまいます」
そっと覗いてみると、似た後ろ姿が二つ。
杏寿郎様が千寿郎君に見守られながら料理をしていた。
時折手を出しそうになる千寿郎君は、ぐっと堪えて杏寿郎様の手元を見守って。
そんな兄弟の時間がとても微笑ましくて、胸がきゅっとなった。
「どうも俺は料理との相性が悪いようだ」
顔は見えなくても少し困っていることが声色からわかってしまって、思わず笑ってしまいそうになった口を慌てて塞いだ。
「兄上にも一つくらい弱点があると思うと安心します」
「弱点か。そうだな! 今日はハナを喜ばせたい。待たせてしまった詫びもあるが…俺たちは人並みの付き合いというものができない。だからな、少しでも記憶に残ることをしたい。千寿郎のおかげでそれができる! ありがとう!」
ちらっと見えた重箱には、すでにいくつかおかずが詰められていた。
きっとすごく早起きをして、なんなら指先にも傷を作りながら野菜を切って…。それから焦げそうになってあせったり。
その姿が目に浮かんで、鼻の奥がツンと痛くなった。
完全に出ていく時宜を逃してしまい、暫く二人を見守っていると、
「はなおはよう」