第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
また腕を引かれて杏寿郎様の胸の中に引き込まれた。
「しかし、何も纏っていない君はクるものがあるな」
カプッと耳を啄まれて、低い声を耳に直接吹き込んでくる。
「知っているか? 俺がこうして体温を分け与えると、この証がより濃い赤になり浮かび上がる」
「耳…はだめ…」
「君は耳が弱いな」
だめ、だめ、だめ──
また、体をゆるしてしまう。もう槇寿郎様も千寿郎君もいるのだから、早く着物を着なきゃなのに…。
「さぁ食べようか」
「へっ…? 食べっ!?」
「食べたい」
食べる、には二つの意味がある。文字通り、食べ物を食べる。ともう一つ、欲を食べる。
あれだけ愛された後に聞くと、どうしても後者が頭に浮かんでしまう。
現に杏寿郎様は私の耳元で甘く囁くように『食べたい』と吹き込んだ。
「また…食べるのですか…?」
「あぁ。食べる。うな重をな! 父上が買ってきてくれたぞ!」
うな重…。顔が火が出そうなほど熱い。耳まで熱い。
一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしいし、何より人の機微に敏感な杏寿郎様は私の勘違いにいち早く気づいているはず。
「うな重…食べます」
「顔が赤いな。意地悪が過ぎたか?」
確信犯、意地悪だ。本当に。
頬を膨らませてみるも、両頬を手で包まれて潰された挙句に口づけまで落とされた。
近くで見る杏寿郎様は、やっぱり素敵で色っぽくて色欲を称えている。
私の勘違いでなければ、杏寿郎様だって違う意味の『食べる』を思い浮かべていたはず。
そんな杏寿郎様に絆されて、私の心はいとも簡単に奪われていってしまう。