第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
あいつなりに、寂しさを消化しようとしている。それを邪魔したかねェ。
だからここで声を掛けずに遠くから見守ってるわけだ。あいつは、しばらく桜を見上げてたと思ったら寝ちまった。
「そうかよォ。めんどくせぇ奴に会っちまったなァ」
「なんで声かけねぇの?」
「あれが、あいつなりの煉獄の想い方なんだよ」
「ふーん…お前さ、なかなかつれぇな。同情するわ」
「てめぇに同情なんざされたかねェ!」
宇髄は俺の肩を叩くとその場に座りこんだ。
「おい! 帰れよ! 居座ってんじゃねェ」
「しー…」
どの口が言う…と思ったが小さく動いたはなを見た俺たちは体を竦めて押し黙った。
「おい、こんなこそこそして、煉獄が来て何か始まっちまったらどうすんの?」
「知らねぇ! てめぇは帰れ!」
「なぁ、はなちゃんてあんなに綺麗だったか? やっぱり恋するといい女になんのかねぇ。お前も恋してるわりにその狂犬みてぇなツラ変わんねぇのな」
「うるせぇなァ。黙っとけ」
結局俺も宇髄も声をかけられねぇまま、屋敷へ戻る姿を見届けた。
「俺が煉獄より一足早く出会ってりゃ、俺がはなちゃんと花見してたかもしんねぇよなぁ?」
「お前なァ。嫁が三人も入るだろぉがァ!」
「三人も四人も変わらねぇだろ? 俺は平等に愛せるからなぁ」
あまりに呆れた答えに項垂れた。
冗談だとわかってたってそんな軽く見られりゃ腹が立つ。
「あいつはなァ、そんな片手間で扱っていい女じゃねェ」
「あら実弥ちゃんムキになっちゃって、随分惚れ込んでる様子」
「うるせぇなァ!」
煉獄が相手ならと身を引いた。煉獄の目が届かない時は見守る。それくらいなら許されるよなァ?
「報われねぇって…苦しいよな」
宇髄はそう言い残して帰って行った。
報われない。笑っちまうなァ。報われないとわかっていて手放せないんだからなァ。
情けなくとも、それでいいと思えちまう。