第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
小皿におかずを盛って差し出すと、不死川様は遠慮がちに受け取った。
今度は私の分を小皿に取り分けていると、何となく不死川様の視線を感じて顔を上げた。
「私に何かついています?」
「いきなりこっち向くんじゃねェ!」
「ごめんなさい! 桜綺麗ですよね…本当に。ここは、前に杏寿郎様と見つけたんです。ここに来るにはちょっと足場が悪いのであまり知られてないみたいで。穴場なんですよ」
「あぶねぇだろォ。こんなところに一人じゃよォ。確かに足場がわりぃ。爽籟がいなきゃ見つからなかったなァ」
不死川様は桜の木の枝にとまり羽を休めている鴉を一目見ると、煮豆をぱくっと食べた。
「桜は俺達隊士みてぇなもんだ。呆気なく散る。そんな奴を何人も見てきたからなァ」
誰かのことを思い浮かべているであろうことは一目瞭然で、きっとその誰かは今でも大切なかけがえのない存在なのだろうとわかるくらい優しい瞳で桜を見つめていた。
「毎年、桜の時季は辛いですか?」
片膝を立てて桜を見上げる不死川様は『そうかもなァ』と呟いた。
なんだかそれがとても胸にしみて、目頭が熱くなってしまった。
「しみったれた顔してんじゃねェ。さっさと食わねぇと日が暮れるぞォ」
「はい!」
自分のお皿にのった卵焼きを食べたら、甘さが口に広がって幸せに満たされた。
不死川様を見れば次から次へとおかずを口に運んでいて、満更ではなかったのだなとほっと安心した。