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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]


期待を胸に開けられている襖から顔を覗かせると、

「寝れんのか」

 槇寿郎様が読んでいる書物から顔を上げて、難しい顔を柔らかく緩ませた。
 杏寿郎様ではなかったけれど、私はその顔に酷く安堵した。

「はい…杏寿郎様がまだお戻りにならなくて」

「ならば、少し付き合うか?」

 そう言ってちょいちょいと手招きをする。
 槇寿郎様の側に回ると将棋盤が置いてあり、読んでいる書物はどうも定跡の書のようだ。

「槇寿郎様、将棋なさるのですか?」

 物珍しさに覗き込んでみると、将棋盤を移動させながら、

「千寿郎がな…」

 嬉しそうに呟いた。
 将棋盤を槇寿郎様と私の間に置き、駒を並べ直しながら続けた。

「千寿郎が、生意気にも勝負を挑んできてな」

 生意気にも…と言いながらもその声は穏やかで楽しみにしている様子が伝わってくる。

「そうですか。勝負の日はいつなのですか?」

「あぁ、明日…と言ってももう今日だな。……茶でも飲むか?」

 そう言って立ち上がろうとするので、私も急いで立ち上がった。

「槇寿郎様、私が!」

「よいよい、たまには俺が淹れよう。そんな薄着では風邪をひくぞ」

 私に座るよう促すと、槇寿郎様は肩に掛けていた羽織を私の肩にかけてくれたのだ。

「杏寿郎のものではないが、風邪をひくよりはマシだろう」

 優しく微笑んで厨へ向かって行ってしまった。
 槇寿郎様にそんなことをさせてしまって良いのだろうかと思ったけれど、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。

自然とふんわりと笑うようになった槇寿郎様の背中を見送ると、思い出されるのは、やはり杏寿郎様。
 肩に掛かった羽織は温かい。けど、一番欲しい温もりは杏寿郎様からのもの。
 それでも槇寿郎様の体温で温まった羽織は心地よくて、机に腕を置いてそれを枕にして将棋盤をぼーっと眺める。

 千寿郎君が槇寿郎様と将棋。二人が真剣な顔をして覗き込む姿が想像できる。

 本当は、槇寿郎様も杏寿郎様の帰りが遅いことを心配しての行動なのかもしれない。素直じゃないところに思わずクスッと笑ってしまう。

「なんだ、なにか可笑しいか」
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