第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
「そんな顔をして、不安か?」
ちょっとした心の変化に敏感なところは親子して同じらしい。
「たまにとても不安になります。心配で恐くて…」
するともう一人。
「はなさん大丈夫です。兄上は強いです!」
兄である杏寿郎様に絶対的信頼と尊敬を持っている。心優しい千寿郎君。
「そうね、千寿郎君ありがとう」
杏寿郎様は強い。すごく強い。だからこそ心配になる。
誰かの為に命を落としてしまうのでは…と思うから。
あの燃える炎のような羽織が、その覚悟を表している様な気がする。
「お前がそんな顔をしていては、杏寿郎も千寿郎のような顔になってしまうぞ!」
「父上! それはどの様な意味ですか!」
ふと千寿郎を見てみれば、やはり眉は下がっていて、その可愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまうのだ。
「あっ! はなさんまで笑ってます!」
「ごめんなさい! あまりに可愛くてね」
私の言葉に頬をぷくっと膨らませる千寿郎君はやっぱり可愛い。
「はなさん! 僕だって男です! 可愛いは…ちょっと…」
「可愛いは今だけの特権よ? 千寿郎君もすぐに杏寿郎様のように勇ましい大人の男性になるのだから」
「そうでしょうか? はなさんにそう言ってもらえると、嬉しいです」
ぱっと顔を明るくさせて喜ぶ千寿郎君に、槇寿郎様も更に顔を緩ませた。
「いくら春とは言え玄関はまだ冷える、中に入って夕餉としよう。明日は出掛けると言っていたな。風邪ひいたら行けんぞ」
「ごめんなさい! すっかり夕餉の支度が途中でした!」
「父上、はなさんが兄上の大切な方で良かったです」
「ほう、奇遇だな。俺も今そう思ったところだ」
そんな二人の会話が耳に届いて、厨へ向かう私の足取りは軽くなった。