第4章 甘 い 嫉 妬 [宇髄天元]バレンタイン
明日はバレンタイン
私は生チョコ作りに勤しんでいる
『なぁ、それ…どうしても作んなきゃなんねぇの?』
明らかに苛立った声がリビングから聞こえる
お気に入りの映画を観ているはずなのに、集中できないようで何度もこちらの様子を伺ってくる
昼まで出て来てとお願いした彼はさっき帰ってきたばかり
「うん…。一応ね、皆用意してくるのが通例だし…私だけ何もしないのも…ね?」
苛立った彼を刺激しないように言ったものの、ご機嫌が直る訳もなく…
大きなため息をつくと、またテレビに目線を移してしまった。
こうなると放っておくしかないことはわかっているし、この苛立った彼を相手にする程暇でもない。
部屋中に甘いチョコの香りが充満すると、さっきまでのピリピリとした感情をとろけさせてくれて幸せな気持ちになった。
『…なんだよ、一人で楽しそうにしやがって……』
キッチンの入り口で壁にもたれながらこちらを見る彼は、私が楽しそうなのが気にくわないようだ。
「いい香りでしょ!天元さんのも作るよ?」
『はぁ?俺のチョコは、会社の爺と一緒かよ!』
会社の爺…
天元さんが嫉妬している相手は会社の人。
小さな建築系の会社で事務をしている私は、この時季いつもこの緊張感を味わうことになっている。
男性の割合が多く、それとなくチョコを期待する同僚を無下にはできないし、他の女性社員も準備してくるからまた厄介。
私だけ何もしない…と言う訳にはいかないのだ。
「ちがうの!天元さんにはちゃんと別の物、用意して……するから!」
ここまで言って口を継ぐんだ
だって、びっくりさせたいから…
するとまた、眉間に皺を寄せた
マズイ事言った…?
『用意するからってこれから用意すんのかよ!そんな爺のより俺は後回しか?』
苛立ちながらも言ってることはただのヤキモチで、そんな天元さんが可愛くなってしまったことは内緒にしておこう。
『それによ、そのワンピース着て作んなよ!』
あぁ、これ……
このワンピースは寒がりで冷え性の私に裏起毛になっている物を部屋着にと買ってきてくれたもの。
どうしてワンピースなの?
と聞く私に、
捲れば触れるから
となんとも彼らしい答えで返してくれた。
それを…着て作るなと言いたいらしい。
「だってこれすごく温かいから…キッチン冷えるし…毎日着てるの知ってるでしょ?」
