第1章 誘 惑 の 媚 香 [煉獄杏寿郎]
「杏寿郎様も任務があったではないですか!大晦日はいつもより夜に人が出歩くから…と。」
『宇髄と不死川のお陰で…任務が早く終わってな。だから…君と触れ合いたかったのだが…』
杏寿郎は囁きながら、はなの耳縁を甘噛みした。
「んふっ…」
もうこのまま……いや、それはだめ!!
せっかくおせち作ったのに!
『体は…続きが欲しいと言っているようだが?』
杏寿郎がはなの顎をくいっと上げた。
その途端、はなの中に沸々と怒りが込み上げてきた。
「いつもそうやって私のこと…!!もう!知らないです!!」
杏寿郎の顎に添えられた手を払い、くるっと身を翻して部屋を出て行ってしまった。
『怒らせてしまった…のか…?』
初めて見るはなの怒った顔に驚きを隠せずにいる。
「はぁ…少し…きつく言いすぎてしまったかしら…」
台所へ繋がる冷たい床を歩いていると少しずつ後悔が生まれてきた。
確かに杏寿郎の言う通り、続きが欲しい。
もっと深く杏寿郎を感じたかった。
ずっと我慢させていたし、月のものが終わったらと約束もしていた。
しかし、大晦日の夜まで任務に赴いた杏寿郎に、良いお正月を迎えて欲しかった。
その為におせちを整え、大掃除をし、昨夜も寝ずに出迎えた。
それなのに…自分の欲を優先しようとしてしまった。
あぁ、私は杏寿郎様に腹を立てたのではなく、欲に負けそうになった自分に腹が立っているのだわ…
せっかく作ったおせちを食べてもらいたいから
杏寿郎様の為に準備したのだから…
「杏寿郎様にちゃんと謝らなければいけないわ…新年早々こんなこと…」
台所へ立ち、三段のお重を広げた。
一品一品、丁寧に作った。
なにより、栗きんとんはさつまいもが好きな杏寿郎の為に多めに作った。
その栗きんとんを作った時の自分の想いは、ただ杏寿郎に喜んでもらいたいそれだけだった。
「それなのに…私。お正月なのに…ひどいことをしてしまった…」
はぁ…とため息を一つついた。
『はなさん…さっきは…すまなかった。』
背中から気を落とした杏寿郎の声がする。
その声にゆっくり振り向いた。
そこには、眉を下げ悲しそうな顔をした杏寿郎がいた。