第3章 懐 想 [煉獄杏寿郎]バレンタイン
はなとは、去年の秋に付き合い始めたばかりだった。
他校の養護教員をしており、大学時代の友人からの紹介とベタな出会いだったが、今では彼女なしの人生は考えられない程に惚れ込んでいる。
そのような訳で、付き合ってからのイベント事と言えばまだクリスマスと正月しか経験していない。
『そりゃあ派手にいいじゃねぇか!14日は早く帰ってやれよ?』
宇髄は呼吸が止まるかと思う程強く背中を叩くと、玄関へと向かってしまった。
『相変わらず豪快な男だ…』
2月と言えば、受験やら卒業の準備やらで忙しい。
はなと約束したものの…早く帰れる自信はなかった。
そんな不安と嬉しさを天秤にかければ、やはり嬉しさが勝つ訳で、職員室へ続く廊下を歩く杏寿郎の足取りは軽く、すれ違う生徒への挨拶の声も、当然いつもより大きくなる。
すると廊下の向こうから走ってくる生徒がいる
『ちょっと!!煉獄先生、何浮かれてんのぉぉぉ!!浮かれてる音がするんですけどぉぉぉ!
バレンタイン近いからでしょ!!そうでしょおぉぉ!!煉獄先生かっこいいし、たくさんチョコもらえるもんねぇぇぇえ!』
この時季は、男子生徒達が最もソワソワする時季
目の前のこの生徒もまた例に漏れずそのようだ
『善逸、煉獄先生に失礼だろ!すみません。煉獄先生…』
この少年は、竈門少年だったな
『いや、いいんだ。好きな女性にチョコを貰えると言うのは、嬉しいものだからな。
我妻少年、君も良いバレンタインが過ごせると良いな!』
『ちょっと!!どうしたらチョコもらえんのぉぉお?』
『善逸!煉獄先生は忙しいんだ。行くぞ。』
竈門少年は面倒見がいいな!
感心、感心
炭治郎に首根っこをつかまれ、引きずられながら連れていかれる善逸を見送ると杏寿郎も、担任を持つクラスへと向かう。
『はなも仕事を始める時間だな。』
クリスマスプレゼントにとはながくれた腕時計で時間を確認すると、彼女の顔が目に浮かび自然と口角が上がってしまう。