第2章 風 の 憂 鬱 [不死川 実弥]
肺の中に感じる冷気が落ち着け…と言ってる気がするが、一向に治まらない熱が不死川を昂らせていた。
こうなると…もう熱を吐き出すまではどうにもならない…
『あいつにこんなにも絆されるなんてなァ…俺のモンにはなんねェってのによォ』
夜道を月が照らしている。穏やかな光ははなの微笑みのようで、殺気立った不死川の表情を心なしか穏やかにさせた。
『落ち着けってかァ?けどよぉ…』
体の熱は治まらない。
黒髪の女ははなに似ても似つかない容貌なのに、髪のせいではなの印象がこびりついて離れなかった。
その後も鬼の気配を探り二体鬼を狩った。
それでも尚血が騒いでいる。
昂る気持ちを抑えられないまま夜明けも近くなり、屋敷へ戻り湯浴みをした。
着崩した浴衣から覗く胸板は、隊服とは違う色香を放っている。
はなを抱き上げた感触を忘れたくて、強く握った日輪刀。
鬼の頸を斬れば治まると思っていた昂り。
落ち着け
といくら自分に言い聞かせても、沸き立つような情欲が治まる気配がない。
杏寿郎の匂いがついて離れないはなに、こんなにも欲情してしまうなど
『情けねェ』
しかしたった一度でいい…抱きたい
何度も頭に浮かんでは掻き消してきた思い。
『あいつは煉獄のモンだァ…』
炭を入れた火鉢がパチパチと音を立てている。
赤く熱を持ち暖をとらせてくれる炭を眺めていると
『煉獄も…この炭みてぇにあいつの心も体も温かくしてやれんだろォなァ…風じゃあ…だめってことかい』
杏寿郎がはなの頬を包み、真っ白だった頬が段々と色を取り戻す様が思い出される。
その温かさに漏らした吐息の混じった声。
あんな色っぽい声出せんのかよ…
抱き上げたときに、杏寿郎の香りと混じり不死川の鼻孔に届いたはなの香り。
不死川の熱を上げるには充分だった。
お前の瞳は煉獄を映すためにあんだろ?
お前の口から…実弥と響くことはないんだろう?
わかってんだァ
そんなこと。
ただ…今日一夜でいい。
この腕にお前の幻想を抱かせえくれねぇかァ?