第2章 風 の 憂 鬱 [不死川 実弥]
宇髄の屋敷を後にして、一度屋敷へ戻ろうかとも考えた。
しかし、体の中心に集まった熱が、発散させろと騒いでいる。
『ったくよォ、むしゃくしゃするぜェ!!』
こんな日は一体でも多く鬼狩らなければ気が済まない。
はなを抱いた感触が手に残り、少しでも早く日輪刀を握りたかった。
『くそっ……なんなんだ、あの声はよォ』
不死川は頭をグシャグシャと掻いた。
耳について離れない、杏寿郎を呼ぶ声。
あいつが幸せなら…と何度も何度も思った。
けれど、声を聞けば、触れてしまえば…
この腕の中に…と思って苦しくなる。
あいつは、もう煉獄を知っちまった。
さぞかし良い顔して抱かれんだろォ…あの微睡んだ顔見りゃわからァ。
煉獄が瞳に映った瞬間微笑みやがって。
不死川は苛立ちを隠せず、近くにあった木の幹を拳で叩いた。
こんなことしても、拳が痛むだけなんてことはわかっている。
一刻も早く鬼の頸を斬りたい
ギリギリと燃えたぎる闘志は嫉妬からくるものなのだろうか。
不死川は奥歯を噛み締め、爽藾の後に続いた。
山の開けた場所に着くとツンと血の臭いが鼻についた。
それは近くにある寺から、風に乗って漂って臭ってきているらしい。
『あそこかァ。』
不死川が寺の戸に手を掛けた
『うぅ……やめ…て…』
若い女のうめき声とぴちゃぴちゃと血の滴る音がする。
ダンと戸を勢いよく開けると、そこには女の首に喰らいつく鬼がいた。
『おい!くそがァ!そいつを放せやァ』
不死川の声に鬼が振り向くと、女の姿がよく見えた。
不死川の血が一気に頭に上った。
首からドクドクと血を流す女の髪は、まるではなのように漆黒の黒だった。
『てめェ、俺は最高に虫の居どころがわりィ。さっさと斬ってやらァ』
日輪刀をぐっと握り直すと
『お前…稀血だな?』
『てぇめらクズの大好物の稀血だァ!喰えるもんなら喰ってみやがれェ』
鬼は女を突き飛ばし、涎を垂らしながら向かってきた。
不死川は鬼に放された女の方へ駆け寄り、安全な場所へ横たえさせ、羽織を脱ぐと女の首に当てた。