第2章 風 の 憂 鬱 [不死川 実弥]
遊廓への潜入捜査の協力依頼だった。
遊廓…と言えば男女の欲が入り交じるところ。
『おい、客として潜入してよォ…床入りは…どうすんだァ?』
つい…そこが気になってしまう。
『不死川、派手に乗り気じゃねぇか!そりゃ、せっかくだし楽しんできたらいんじゃねぇの?』
宇髄が何を思っているのか、不死川を舐める様に見てくる。
『うるせェ!床入りしねェ客なんざ目立っちまうんじゃねぇかってことだァ!』
わざわざ遊廓まで行って、何もせずに帰るなんてできんのかァ?
それこそ怪しまれちまう。
煉獄はどうすんだァ?…他の女を抱くのか?
杏寿郎に目を向ければ、呑気におはぎを食べている。
涼しい顔しておはぎ食いやがって。余裕じゃねぇかァ
俺は…いっそ他の女でも抱きゃあ…この欲を吐き出せちまえば楽になんのかァ?
中庭にいるはなが気になった。
岩に腰掛け、木にもたれかかっている。
漆黒の髪が揺れ美しい。
背を向けている為に表情はわからない。
でもなぜか…今すぐに顔がみたい…そう思ってしまった。
しかし、目に留まったのは杏寿郎の髪紐と同じ編みかたの空色の髪紐。
そうかよォ。俺はあいつの顔を見ることすら…許されねぇのか…
なんとも居たたまれなくなった。
『便所借りるぞォ』
涼しい風に当たって冷静になりたい。
厠を言い訳に部屋から出れば冷たい空気が身を包む。
厠の帰りはなの顔が嫌でも目に入る
はなは長い睫を伏せ眠っているようだった。
あいつ…!!
こんな冷える外で寝やがって!
考えるよりも先に体が動いた。
外履きも履かず駆け寄れば、赤みのない頬に髪がサラサラと流れている。
『おい!こんなとこで寝てんじゃねェ!死んじまうぞォ!』
起こさねぇとまずい!
肩を揺すってみるが起きる気配がない。
『だぁ!もう!煉獄んとこ連れてってやるから、我慢しろやァ』
膝の下に腕を入れ、空いている方の腕で首を支え抱き上げた。
すると不死川の隊服を掴んでくる
『おい!煉獄と勘違いしてんじゃねェ!』
何してやがる!!
…このまま連れ去りたくなっちまう。
隊服の開いた胸元にひんやりたはなの頬の感触が伝わってくる。
『やべぇなァ……』